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働く人には安心を。 管理職には自信を。 企業には、誰もひとりで抱え込まない職場づくりを。 20年以上、企業の現場で働く人と向き合ってきた産業医が、「今、困っている」に寄り添い、明日から実践できるメンタルヘルスを届けます。

部下の元気がないとき、上司が最初にしてよいこと・いけないこと

「最近、あの人らしくない」
上司をしていると、そう感じる瞬間があります。

以前より口数が少ない。
遅刻が増えた。
顔色が悪い。
ミスが続いている。
会議で発言しなくなった。
昼休みに一人でいることが増えた。

こうした変化に気づいたとき、管理職の多くは迷います。
声をかけた方がいいのか。
そっとしておくべきか。
どこまで踏み込んでよいのか。

この迷いは自然なものです。
実際、部下の不調に気づいても、最初の一言が難しいという上司は少なくありません。

けれど、ここで大切なのは、完璧な対応をすることではありません。
まず必要なのは、「いつもと違う」に気づき、ひとりで抱え込ませないことです。

厚生労働省の管理職向け資料でも、メンタルヘルス不調の予防には、部下の「いつもと違う」様子に早めに気づくことが重要だとされています。 Source Source

この記事では、
部下の元気がないとき、上司が最初にしてよいこと・いけないこと
を、現場で使いやすい形で整理します。


まず知っておきたいこと

上司の役割は「診断」ではなく「気づき」と「橋渡し」

部下の不調に気づくと、上司はつい
「原因を突き止めなければ」
「何とか自分が解決しなければ」
と思いがちです。

でも、ここで無理をすると、かえって関係がこじれることがあります。

上司に求められるのは、
医師のように診断することではありません。

役割はもっと実務的です。

  • 変化に気づく
  • 声をかける
  • 話を聴く
  • 業務上の負荷を確認する
  • 必要に応じて人事や産業医などにつなぐ

管理監督者には、部下からの相談に日常的に対応し、必要に応じて産業保健スタッフや外部資源への相談・受診を促すことが求められています。 Source

つまり、上司が一人で抱える必要はありません。
むしろ、抱え込まないことも大事な役割です。


最初にしてよいこと1

「いつもと違う」を事実として見る

部下の不調に気づくとき、重要なのは
性格の問題として決めつけないことです。

見るべきなのは、本人の「通常の行動様式からのズレ」です。
たとえば、次のような変化です。

  • 遅刻や欠勤が増えた
  • 顔色がよくない
  • 口数が減った
  • 身だしなみが乱れてきた
  • 昼休みに一緒に食事へ行かなくなった
  • 仕事の能率低下やミスが目立つ
  • 眠れていなさそう
  • 疲れやすそう
  • 飲酒や喫煙が増えているように見える

こうした変化は、実際に管理職向けの資料でも、不調に気づく手がかりとして挙げられています。 Source

ポイントは、
「気合いが足りない」ではなく、「前と違う」で見ることです。


最初にしてよいこと2

早めに、短く、静かに声をかける

気になる変化があったら、まずは声をかけます。
ただし、ここで大切なのはタイミングと場所です。

  • 人前で言わない
  • 会議中に触れない
  • 冗談っぽく扱わない
  • 酒席に持ち込まない
  • 個室や落ち着いた場所で話す

プライバシーへの配慮はとても重要で、相談対応は他の人に聞こえない場所で行うこと、知った個人情報は不必要に共有しないことが大切です。

声かけは、重すぎなくて構いません。

たとえば、

  • 「最近少し疲れて見えるけれど、大丈夫ですか」
  • 「いつもより元気がないように見えて、少し気になっていました」
  • 「何かあれば相談してください、ではなくて、もしよければ少し話しませんか」
  • 「業務のことで調整が必要なら、一緒に考えたいです」

このくらいで十分です。
大事なのは、見ていること心配していることが伝わることです。


最初にしてよいこと3

アドバイスより先に、まず話を聴く

多くの上司が最初にやってしまうのが、
「こうした方がいい」
「気にしすぎだよ」
「まずは休みの日にリフレッシュして」
と、すぐ助言に入ることです。

こういう対応を取られると、部下は「わかってもらえないな」「相談してもだめだった」と感じる場合が多く、その後相談しなくなってしまいます。

不調のある人が最初に必要としているのは、
正論よりも、安全に話せる場であることが少なくありません。

部下の話を聴くときは、

  • 先入観を持たない
  • 話の途中で原因を決めつけない
  • 評価しない
  • 否定しない
  • わからないことは教えてもらう姿勢でいる

ことが大切です。

つまり、上司に必要なのは
“話をまとめる力”より、“本気で聴く姿勢”です。次の相談につなげることが重要なのです。


最初にしてよいこと4

仕事への影響と、必要な配慮を一緒に整理する

話を聴くとき、気持ちだけで終わらせず、
仕事にどんな影響が出ているかも確認できると、支援につながりやすくなります。

たとえば、

  • 朝が特につらいのか
  • 集中力が落ちているのか
  • 人前対応がきついのか
  • 残業が負担になっているのか
  • 特定の業務で消耗しているのか

こうした点を整理すると、
必要な配慮も見えやすくなります。

実際、職場でのサポートとしては、

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への変更
  • 残業・深夜勤務の免除
  • 交替勤務から日勤への転換
  • 危険業務、運転、窓口、苦情対応業務などの免除

といった対応が例として挙げられています。 

上司が最初から全部決める必要はありません。
ただ、何に困っているのかを仕事の言葉にすることは、とても助けになります。


最初にしてよいこと5

必要なら、産業医や人事へつなぐ

上司が話を聴いて終わり、では不十分なこともあります。
特に次のような場合は、専門職や関係部署との連携を考えたいところです。

  • 眠れない、食欲がないなど身体症状がある
  • 業務遂行に明らかな支障が出ている
  • 長時間労働が続いている
  • ハラスメントの可能性がある
  • 休職や勤務調整の検討が必要
  • 本人が「このままではまずい」と話している

管理職の役割には、必要に応じて産業医、保健師、看護師、心理職などの産業保健スタッフや外部資源につなぐことが含まれます。 

ここで大切なのは、
上司が解決者になることではなく、適切な支援につなぐことです。


ここからは

上司が「してはいけないこと」

次に、現場で起こりやすいNG対応を整理します。
悪気がなくても、これらは部下をさらに追い込むことがあります。


いけないこと1

「気の持ちよう」で片づける

  • 「みんな大変だから」
  • 「考えすぎじゃない?」
  • 「甘えないで」
  • 「忙しい時期だから仕方ない」
  • 「そのくらいで落ち込んでいたら持たないよ」

こうした言葉は、上司に悪意がなくても、
部下には“分かってもらえなかった”という経験として残ります。

不調の初期には、本人も自分の状態をうまく言葉にできません。
そこで気合い論を重ねると、相談の扉は閉じてしまいます。


いけないこと2

すぐに原因を決めつける

  • 「家庭の問題でしょ」
  • 「性格の問題だよね」
  • 「単にやる気が落ちてるだけでは」
  • 「異動に慣れていないだけだろう」

このような早すぎる解釈は危険です。

話を聴く前に原因を決めることは、
部下の現実を見誤るだけでなく、
本人に“どうせ分かってもらえない”と思わせやすいからです。


いけないこと3

問いただす、詰める、答えを急がせる

傾聴で大切なのは「聴く」であって、「訊く」になりすぎないことです。
資料でも、語りたくないことを尋問するように問いただすのは避けるべき形として整理されています。 

たとえば、

  • 「何が原因なの?」
  • 「いつから?」
  • 「誰のせい?」
  • 「で、結局どうしたいの?」
  • 「診断名は?」

と矢継ぎ早に聞くと、
部下は相談ではなく事情聴取のように感じます。

特に、まだ本人の中で整理できていない段階では、
答えを急がせないことが大切です。


いけないこと4

本人の了承なく広く共有する

これは信頼関係を壊しやすい対応です。

もちろん、支援のために必要な共有はあります。
ただし、その場合も原則として本人の了解を得たうえで、必要最小限にとどめることが大切です。共有内容も、病名そのものより、残業制限や業務軽減など必要な配慮に焦点を当てるべきです。

「心配して、みんなにも伝えておいたよ」は、
支援ではなく、本人にとっては裏切りになることがあります。


いけないこと5

ハラスメントの訴えを軽く扱う

もし部下の元気のなさの背景に、

  • 強い叱責
  • 不適切な指導
  • 無視や孤立
  • 職場での威圧的な関係

があるなら、対応はより慎重であるべきです。

特に避けたいのは、

  • 「本人にも問題があるのでは」
  • 「そのくらい普通だよ」
  • 「気にしすぎじゃないか」

といった反応です。

本人にも問題があるような発言や、否定するような発言は二次被害につながる場合があります。

ハラスメントが疑われるときは、上司だけで抱えず、相談窓口や産業保健スタッフ、人事と連携する視点が必要です。 


上司としての一言は、こう変えると伝わりやすい

NG

「最近ミス多いけど、どうしたの?」

Better

「最近いつもより大変そうに見えていて、少し気になっていました」


NG

「原因は何?」

Better

「話せる範囲で大丈夫ですが、今どんなことがいちばん負担になっていますか」


NG

「気にしすぎじゃない?」

Better

「そう感じるくらい、今はしんどい状況なんですね」


NG

「とにかく頑張って乗り切ろう」

Better

「今のやり方のままだと負担が大きそうなので、調整できることがないか一緒に考えましょう」


上司自身が余裕を失っているときこそ注意

大事なのは、上司もまた人間だということです。

部下の不調に向き合うには、
上司自身にもある程度の余裕が必要です。
管理職向けの案内でも、部下のケアをするには、上司自身の心のゆとりが大切だとされています。 Source

自分が疲れ切っているときほど、

  • 早く結論を出したくなる
  • 面倒を避けたくなる
  • 強い言い方になりやすい
  • 「自分だって大変なのに」と感じやすい

ものです。

だからこそ、部下のことだけでなく、
上司自身のセルフケアも、実はラインケアの一部です。


おわりに

部下の元気がないとき、
上司が最初にすべきことは、立派なことでも、特別なことでもありません。

気づくこと。
声をかけること。
話を聴くこと。
そして、必要なら一人で抱えずにつなぐこと。

逆に避けたいのは、

  • 気合い論で片づけること
  • 原因を決めつけること
  • 問いただすこと
  • 勝手に広く共有すること
  • ハラスメントの訴えを軽く扱うこと

です。

上司の最初の対応で、
部下が「もう誰にも言わない」と閉じることもあれば、
「少し話してみようかな」と思えることもあります。

完璧でなくて構いません。
でも、最初の一歩だけは、雑にしないこと。

それが、部下を守るだけでなく、
職場を壊さないためにも大切です。

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