復職は、ゴールではありません。
休職から職場に戻ることは、長い回復のプロセスの一つの区切りにすぎません。実際、復職後に再び休職してしまう人は少なくありません。だからこそ、復職後の過ごし方は、復職そのものと同じくらい大切です。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、職場復帰支援は休業の診断書が出た時点から、休業中、復職前の調整、復職後のフォローアップに至る一連のプロセスとして行うものとされています。つまり、復職後の支援まで含めて、初めて「職場復帰支援」が成り立つのです。 Source Source
今回は、復職した後にもう一度しんどくならないために、本人ができること・意識したいことを整理します。
1.「戻れた安心」のあとに、再発のリスクはある
復職できたときの安心感は、とても大きいものです。
「やっと戻れた」「これで普通に戻れる」と感じるのは自然なことです。
ただ、ここで気をつけたいのは、復職直後は本人も周囲も「戻れた」という安心に包まれやすい一方で、実際にはまだ回復の途上にあることです。症状が完全に消えたわけではなく、体力や集中力、対人耐性も休職前と同じ状態には戻っていないことがほとんどです。感覚としては、元気な時と比べて70~80%くらいの回復と感じる方が多いようです。
この状態で、休職前と同じペースで働き始めると、心身への負担が一気に大きくなり、再休職につながることもあります。 Source
産業医として、長年多くの復職を見てきた経験からいうと、ざっくり30%くらいの方が復職後、再発しています。
復職後の再発を防ぐうえで大切なのは、
「戻れた」ではなく「戻り始めた」
という感覚を持ち続けることです。
2.働き方は「段階的に」戻すのが基本
復職後の働き方で最も大切なのは、いきなり元のペースに戻さないことです。
多くの職場では、復職直後は
- 残業なし
- 業務量を減らす
- 責任の重い仕事を一時的に外す
- 短時間勤務から始める
といった調整を、段階的に行うことが一般的です。たとえば、復職1か月目は残業ゼロで体調を確認し、問題がなければ少しずつ業務量や勤務時間を戻していく、という進め方です。 Source
ここで気をつけたいのは、段階的な調整は「会社に用意してもらうもの」であると同時に、本人も「急がない」と決めることでもある、という点です。
「周りに迷惑をかけているから」と早く元に戻そうとしたり、「大丈夫です」と無理を重ねたりすると、調整の意味がなくなってしまいます。
働き方を戻すスピードは、周囲の期待ではなく、自分の回復のペースに合わせることが大切です。
3.「また休むわけにはいかない」が、再発を招くこともある
復職した人に共通しやすいのが、
「もう休むわけにはいかない」
「これ以上迷惑はかけられない」
という気持ちです。
この気持ち自体は、責任感のある自然なものだと思います。
ですが、この「休めない」という思いが強すぎると、小さな不調を隠して無理を続けることにつながります。
たとえば、
- 眠れていないのに「たまたま」と流す
- 朝のつらさが戻ってきても「気合いで」出勤する
- 集中力の低下を「慣れの問題」と片付ける
- 通院や服薬を仕事の合間に後回しにする
こうした積み重ねが、再発の入口になることがあります。
復職後に大切なのは、「休まないこと」を目標にすることではありません。
小さな変化を早めに気づき、早めに対処することです。
4.自分の「いつもと違う」に敏感でいる
復職後の再発を防ぐうえで、本人にできる最も大切なことのひとつが、自分の変化に気づくことです。
厚生労働省の手引きでも、フォローアップでは症状の再燃・再発についての早期の気づきと、迅速な対応が不可欠だとされています。 Source
具体的には、次のような変化がないか、定期的に自分を確認してみるとよいでしょう。
- 睡眠がまた不安定になってきた
- 食欲が落ちてきた
- 朝の起き上がりがつらくなってきた
- 気分の落ち込みやイライラが増えた
- 集中力や判断力が落ちていると感じる
- 仕事のことが頭から離れない
- 休日を過ごしても疲れが取れない
こうした変化は、一つだけで判断するものではありません。
ただ、「最近ちょっと違うかも」と感じたら、それは無視せずに済ませないほうがよいサインです。
5.一人で抱えず、定期的に「話す場」を持っておく
復職後の再発を防ぐには、自分だけで状態を判断しないことも大切です。
多くの職場では、復職後のフォローアップ面談が設定されます。たとえば、産業医による面談を月1回程度のペースで行い、体調の経過(睡眠・食欲・気分・集中力など)や業務の状況を確認していくことがあります。 Source
こうした場は、単なるチェックではなく、
- 自分の状態を言葉にする機会
- 仕事の負荷を調整してもらう機会
- 主治医や産業医につなげてもらう機会
として使うことができます。
「まだ大丈夫」と思っていても、定期的に話す場があることで、小さな変化を早めに拾ってもらえることがあります。
復職後は、一人で完璧にやろうとせず、誰かと自分の状態を共有する仕組みを残しておくことが大切です。
6.通院・服薬・生活リズムを「仕事の後回し」にしない
復職すると、仕事が日常の中心に戻ってきます。
そのときに、つい後回しになりやすいのが、治療そのものです。
- 調子がいいからと通院を間引く
- 服薬を自己判断でやめる
- 夜更かしが続き、睡眠が崩れる
- 休日を回復ではなく仕事の準備に使う
これらは、どれも再発のリスクを高める行動です。
復職後は、仕事のペースを戻すことと同じくらい、治療と生活リズムを守ることを優先したいところです。
「仕事が戻ったから治療は卒業」ではなく、しばらくは治療と仕事の両立を続けるつもりでいるほうが、再発を防ぎやすくなります。
7.「またしんどくなったら」の逃げ道を最初に決めておく
復職後の再発を防ぐうえで、意外と大切なのが、
「もしまたしんどくなったら、どうするか」を最初に決めておくことです。
たとえば、あらかじめ決めておくとよいのは、次のようなことです。
- 不調を感じたら、まず誰に相談するか
- 上司・人事・産業医・主治医のうち、最初に話す相手
- 業務量の調整を申し出てよいこと
- 必要なら再度休むことも選択肢の一つであること
「また休むわけにはいかない」と思っていると、いざというときに逃げ道がなくなり、無理を続けてしまいます。
一方で、あらかじめ「しんどくなったら調整する」と決めておくと、小さな段階で対処できるようになります。
復職後の方の中には、「察してほしい」と思っている人が少なからずいます。しかし、たとえよくわかっている家族であっても、今あなたがつらい状況かどうかを「間違えなく察すること」は難しいですし、上司や同僚にとってはなおさら難しいことです。さらに、「ちょっと様子がおかしいかな?」と思っても声をかけにくかったりもします。
自分の体調を自分で守るという意識。これもとても大切です。自分から上司に、同僚に、家族に助けを求める練習を日ごろからしておきましょう。
再発を防ぐのは、「絶対に休まないこと」ではありません。
早めに休む・早めに調整することです。
8.周囲の「いつもと違う」も、自分を守る手がかりになる
復職後の自分を客観視するのは、意外と難しいものです。
調子の悪さに慣れてしまい、「これが普通」と感じてしまうこともあります。
そんなとき、役に立つのは周囲の反応です。
上司や同僚から、
- 「最近疲れて見えるけど大丈夫?」
- 「前よりミスが多い気なんだが」
- 「いつもより元気がないように感じる」
と言われたときは、自分では気づいていない変化がある可能性があります。
「言われて初めて気づく」こともあります。
周囲の言葉を、面倒な指摘ではなく、自分の状態を知る手がかりとして受け取れるとよいと思います。
まとめ
復職は、回復のゴールではなく、新しい働き方の始まりです。
再発を防ぐために、復職後のあなたにできることは、特別なことではありません。
- 働き方を段階的に戻すこと
- 自分の「いつもと違う」に敏感でいること
- 一人で抱えず、定期的に話す場を持つこと
- 治療と生活リズムを仕事の後回しににしないこと
- しんどくなったときの逃げ道を最初に決めておくこと
こうした基本的なことを、続けられるかどうか。
そこに、再発を防ぐ鍵があります。
復職後のあなたに必要なのは、「元通りに戻ること」ではありません。
無理をせず、続けられる働き方を身につけることです。
もしまたしんどくなったとしても、それは失敗ではありません。
早めに気づいて、早めに対処できたなら、それで十分です。

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