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働く人には安心を。 管理職には自信を。 企業には、誰もひとりで抱え込まない職場づくりを。 20年以上、企業の現場で働く人と向き合ってきた産業医が、「今、困っている」に寄り添い、明日から実践できるメンタルヘルスを届けます。

相談したいけれど言えない。職場でメンタル不調をどう伝えるか

「しんどい」
「このままではまずい気がする」
「でも、職場には言いづらい」

メンタル不調を抱え始めたとき、多くの人が最初にぶつかるのは、不調そのものよりも、
“それを誰かに伝えることの難しさ”です。

体調不良なら「熱があります」と言いやすいのに、心の不調になると急に言葉が詰まる。
「怠けていると思われたらどうしよう」
「評価に響くのではないか」
「大げさだと思われたくない」
そんな不安が頭をよぎるのは、ごく自然なことです。

実際、職場で相談しづらい理由としては、

  • 誰が対応してくれるのか分からない
  • 相談した後にどうなるのか見えない
  • 話した内容がどこまで共有されるのか不安
  • 噂になって居づらくなるのが怖い
    といった“見えなさ”が大きいことが指摘されています。 

この記事では、職場でメンタル不調をどう伝えればよいかを、働く人の立場から整理します。
大切なのは、うまく話すことではありません。
ひとりで抱え込まない形に変えることです。


まず知っておいてほしいこと

「全部を話さなくていい」

職場に伝えるというと、
「診断名まできちんと説明しなければいけない」
「なぜこうなったかを全部話さないといけない」
と思ってしまう方がいます。

でも、最初からそこまで話す必要はありません。

まず伝えるべきなのは、病名の説明よりも、
今、仕事にどんな支障が出ているかです。

たとえば、

  • 眠れておらず、朝の立ち上がりに時間がかかっている
  • 集中力が落ちていて、判断に時間がかかる
  • 動悸や吐き気があり、人前対応がつらい
  • このまま無理をすると悪化しそうである

こうした伝え方なら、相手も状況を理解しやすく、必要な配慮の話につなげやすくなります。


言いづらいのは、あなたが弱いからではない

メンタル不調は、本人がいちばん「これくらいで言っていいのか」と迷いやすいものです。
しかも、つらいときほど頭がまとまりにくく、相談の準備そのものが負担になります。

さらに職場では、

  • 評価への不安
  • 配置や昇進への影響への不安
  • 上司にどう受け止められるか分からない不安
  • 周囲に知られたくない気持ち

が重なります。

だから、言えないのは珍しいことではありません。
むしろ多くの人が、「限界が近いのに、まだ言えない」という状態を経験します。

ただ、ここで大事なのは、
言いやすくなってから相談するのではなく、言いにくい段階で少しだけ言葉にすることです。


伝える相手は、ひとりに決めなくていい

「誰に言えばいいのか分からない」という声はとても多いです。
結論から言えば、相談先は一つに固定しなくて大丈夫です。

1. 業務調整が必要なら、まず上司

仕事量、締切、会議、シフト、残業など、日々の業務を調整できる相手が上司です。
管理職には、部下の相談対応や職場復帰支援などの役割があるとされています。 

2. 制度や休職・復職の話なら、人事

休暇、休職、勤務変更、診断書の扱いなど、制度面の相談は人事が適しています。

3. 健康面の整理なら、産業医・保健師

「何をどこまで伝えるべきか」
「就業上の配慮が必要か」
「受診した方がよいか」
といった健康面の相談は、産業保健スタッフが役立ちます。 

産業医として長年メンタル相談を受けていますが、最も多い相談の一つが、「上司になんと伝えればよいか」です。伝え方に迷う場合は、まず健康管理のスタッフに相談してみると良いでしょう。

4. 社内で言いにくいなら、外部相談窓口

社内で話す準備がまだできないときは、まず外で相談して考えを整理する方法もあります。
電話やSNSで、働く人向けの相談窓口が案内されています。 Source Source


伝えるときは「気持ち」だけでなく「事実」を添える

気持ちを話してはいけない、という意味ではありません。
ただ、職場では事実があると支援につながりやすいのです。

たとえば、次の3点を意識すると伝えやすくなります。

1. 何が起きているか

  • 眠れていない
  • 食欲が落ちている
  • 涙が出やすい
  • 動悸や胃痛がある
  • 集中力が続かない

2. 仕事にどう影響しているか

  • 朝の始業に間に合うのがぎりぎり
  • 判断に時間がかかる
  • 人前対応がつらい
  • ミスが増えている
  • 残業を続けると悪化しそう

3. 何を相談したいか

  • 数日休みたい
  • 業務量を一時的に調整したい
  • 残業を減らしたい
  • 産業医面談につなげてほしい
  • 受診しながら働き方を相談したい

この3点があるだけで、
「つらいです」から一歩進んで、
“どう支えるか”の話に入りやすくなります。


伝え方の基本は「診断名」より「困りごと」

職場に伝えるとき、最初から診断名を前面に出す必要はありません。
むしろ、次の順番の方が実用的です。

  1. 今の状態
  2. 仕事への影響
  3. 必要な配慮や相談したいこと

たとえば、こんな言い方で十分です。

  • 「ここ2週間ほど眠れない状態が続いていて、集中力がかなり落ちています」
  • 「このまま通常どおりの残業を続けるのは難しいと感じています」
  • 「一度、業務量の調整や相談先について話す時間をいただけませんか」
  • 「受診も含めて考えているので、勤務面で相談したいです」

この伝え方なら、過不足が少なく、相手も受け止めやすいはずです。

自分から伝えることが難しい場合は、産業医から伝えてもらうこともできます。しかし、できれば、最初は自分から上司に伝えた方が、その後の信頼関係を気づきやすくなります。上司も人間です。いきなり他の人から「○○さんは調子が悪いです」と伝えられるよりも、直接相談された方が、「自分は部下から信頼されている」と感じ、「助けてあげなければ」という気持ちも強くなります。
産業医や保健師から伝えてもらう場合にも、メールやチャットで一言「産業医から連絡があります。」だけでも伝えておくと良いでしょう。


そのまま使える伝え方の例

上司に伝える場合

「少しご相談したいことがあります。最近、睡眠がうまく取れず、集中力も落ちていて、仕事に影響が出始めています。今すぐ大きく休みたいというより、まずは現状を共有して、業務の進め方を相談したいです。」

人事に伝える場合

「メンタル面の不調があり、働き方について相談したいです。制度面や、必要なら産業医面談も含めて確認したいです。」

産業医・保健師に伝える場合

「不調はあるのですが、職場に何をどこまで伝えるべきか迷っています。勤務上の配慮が必要かどうかも含めて相談したいです。」

受診前で、まだ言葉がまとまらない場合

「体調とメンタルの両面で不調が続いていて、このまま通常どおり働くのが厳しくなってきています。うまく説明できないのですが、一度相談の時間をいただけますか。」


メールやチャットで伝えてもよい

対面だと涙が出そう、頭が真っ白になる、という人もいます。
その場合は、最初の連絡を文章にするのもよい方法です。

たとえば、

お疲れさまです。
ここ最近、睡眠不良と気分の落ち込みが続いており、業務への影響が出ています。
直接うまく説明できる自信がないため、まずは文面でご相談しました。
業務の進め方について一度ご相談のお時間をいただけますでしょうか。

これで十分です。
最初から完璧な説明は必要ありません。


「何をどこまで共有するか」は、本人の同意が大切

健康情報はとてもセンシティブな情報です。
厚生労働省の職場復帰支援の手引きでも、主治医等との連携や健康情報の収集には、本人への説明と同意、そして必要最小限の取り扱いが望ましいとされています。 Source

つまり、職場に伝えるときも大切なのは、

  • 何のために伝えるのか
  • 誰に共有する必要があるのか
  • どこまで伝えるのか

を整理することです。

不安があるときは、こんなふうに確認して大丈夫です。

  • 「この内容は、どなたまで共有されますか」
  • 「業務調整のために必要な範囲でお願いしたいです」
  • 「診断名そのものは広く共有しないでほしいです」

これはわがままではなく、当然の確認です。

中には「誰にも何も伝えてほしくない」という方もいます。そのように本人から希望されれば、職場もそうせざるを得ないのですが、できれば仕事に直接かかわる人には、伝えられることは伝えた方が業務調整がしやすくなります。


上司が不調の原因なら、無理にその人へ最初に言わなくていい

もし不調の背景に、

  • 上司との関係
  • ハラスメントが疑われる状況
  • 強い叱責や過重負担
  • 職場内の対人ストレス

があるなら、その上司を最初の相談先にしなくてよい場合があります。

そのときは、

  • 人事
  • 産業医
  • 保健師
  • 社内相談窓口
  • 外部相談窓口

など、別のルートを使ってください。

「本人に言わないと筋が通らない」と考えすぎなくて大丈夫です。
まず優先すべきは、安全に相談できることです。


こんな状態なら、職場への相談とあわせて受診も考えてほしい

次のような状態があるなら、職場への相談と並行して、医療機関への相談も考えてください。

  • 眠れない状態が続いている
  • 食欲や体重の変化が大きい
  • 涙が止まらない
  • 仕事中に強い不安や動悸がある
  • 集中力低下で仕事の継続が難しい
  • 消えてしまいたい気持ちがある

抑うつ状態では、気分の落ち込み、楽しめない、睡眠の乱れ、疲れやすさ、思考力や集中力の低下などがみられることがあります。 Source

受診は「重症の人だけのもの」ではありません。
早めに相談した方が、仕事との両立の選択肢は増えやすいものです。


どうしても社内に言えないときの一歩

本当に言えないときは、いきなり会社に伝えなくても構いません。
まずは外で言葉にしてみる。
それだけでも前進です。

働く人向けには、仕事の悩み、人間関係、心身の不調などについて相談できる電話・SNS相談窓口が案内されています。 Source Source

「会社にどう伝えたらいいか分からない」という相談の仕方でも大丈夫です。
相談とは、答えを持って行く場所ではなく、整理するために使う場所でもあります。


おわりに

メンタル不調を職場に伝えるとき、多くの人は
「ちゃんと説明しなければ」
「迷惑をかけない言い方をしなければ」
と考えます。

でも、本当に大切なのは、上手に話すことではありません。

不調を、ひとりで抱え込む状態から外に出すこと。

最初の一言は、きれいでなくていいのです。

  • ちょっとしんどいです
  • 最近、仕事に影響が出ています
  • 一度相談したいです

その一言が、休養や調整や受診につながり、
結果として、あなた自身を守ることにも、仕事を守ることにもつながります。

言えない自分を責めるより、言える形を一緒に探すこと。
それが、職場で不調を伝える第一歩です。

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