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部下の治療と仕事の両立を支える。上司の役割とは

これまでこの連載では、部下から「休みたい」と打ち明けられたときの初動(部下が『休みたい』と打ち明けてきた。最初に確認したいこと)と、復職後1か月の関わり方(部下が復職する。最初の1か月で上司が気をつけること)を扱ってきました。

今回はその間、あるいはその前後にあたる場面です。
部下が、仕事を休まずに治療を続けながら働こうとしているとき、上司は何ができるのか。

がん、脳卒中、糖尿病、難病、そしてメンタル不調。治療を受けながら働く人は、いま確実に増えています。そして2026年4月、改正労働施策総合推進法が施行され、職場における治療と就業の両立支援の取組みが、すべての企業の努力義務となりました。規模の大小を問いません。 Source Source

このテーマで上司が混乱しやすいのは、「どこまで関わるべきか」「何を聞いていいのか」「医学的な判断を求められているのか」が見えにくいからです。今回は、その境界線を整理します。


大前提:「両立支援」は、休職の話ではない

まず、治療と仕事の両立支援の考え方を押さえておきます。

両立支援とは、病気を抱えながらも働く意欲のある人が、治療を理由に仕事を続けられなくなることなく、治療と仕事を続けられるようにする取組みです。 Source

つまり、休職してから始まる話ではありません。
通院しながら働き続けるために、勤務時間や業務内容をどう調整するか、という進行形の支援です。

ここで上司が「休ませるべきか、働かせるべきか」の二元論に入ると、判断を誤ります。実際の両立支援は、その間にある無数の調整の積み重ねです。

そして厚生労働省は、この取組みのためのガイドラインと各種様式を公開しています。「勤務情報提供書」「主治医意見書」「支援プランの様式」「疾患別留意事項」などが用意され、企業はこれを活用して進めることができます。 Source Source

上司は、この仕組みの存在を知っておくだけで対応が変わります。


役割1:上司は「医学的判断」をしない

最初に明確にしておきたいのが、これです。

上司は、病気の重さを判断しません。就業の可否を医学的に決めません。

  • この症状なら働ける/働けない
  • この治療なら休ませる/休ませない
  • この程度なら大丈夫/大丈夫ではない

これらを上司が独自に線引きすることは、役割の逸脱になります。

では、誰が何を担うのか。役割は分かれています。

立場役割
上司業務の事実と負荷の情報を提供する。現場の調整を具体化する
人事制度運用、勤務形態、休業・復職の手続き
産業医健康面から就業可否や配慮事項を意見する
主治医治療方針や医学的な判断を示す
両立支援コーディネーター本人を中心に、職場と医療機関の間で情報提供・仲介・調整を行う

とくに「両立支援コーディネーター」は、独立行政法人労働者健康安全機構が養成している役割で、患者である本人を中心に、医療機関と職場との間に入って情報提供と調整を担うものです。 Source

上司は、この分業の「現場側の担当」です。専門家の領域に踏み込まず、現場の情報と調整を担当する。これが基本の立ち位置です。


役割2:上司に必要なのは「診断名」ではなく「就業上の配慮情報」

上司が部下の病気を知ったとき、最初に知りたくなるのは診断名や病状かもしれません。ですが、上司が本当に必要とする情報は、それではありません。

必要なのは、仕事を続けるために、何を調整すればよいかという情報です。

たとえば、

  • 勤務時間の調整が必要か(残業制限、短時間勤務、時差出勤など)
  • 通院のための定期的な時間確保が必要か
  • 業務量や責任範囲を一時的に軽くする必要があるか
  • 対人負荷の高い業務、出張、夜勤などを避ける必要があるか

両立支援の制度では、こうした制限勤務を会社に申し立てられる仕組みがあります。残業制限や時短勤務などの制限勤務がその例です。 Source

上司の仕事は、「その人が何の病気か」を把握することではなく、
「どんな配慮があれば、その人らしく働き続けられるか」
を、本人・人事・産業医と一緒に具体化することです。

診断名を聞かなくても、両立支援は十分に成立します。


役割3:主治医と直接やりとりしない。連携の基本は「本人を介して」

ここは、上司が最も誤りやすいポイントです。

「主治医に直接聞けば早いのでは」
そう考えたくなる場面はあります。ですが、会社(上司や人事)が主治医と直接やりとりすることは、個人情報保護の観点から一般的ではありません。連携の基本は、従業員本人を介して行います。 Source

では、どうやって情報をやりとりするのか。
そのために用意されているのが、次のような様式です。

  • 勤務情報提供書:職場側が、仕事の内容・負荷・勤務形態などを主治医に伝える書式
  • 主治医意見書:主治医が、治療と就業に関する意見を記載する書式
  • 両立支援カード:本人記載欄(勤務情報提供書に相当)と医師記載欄(主治医意見書に相当)を一枚にまとめた書式 Source

つまり、上司が個人として主治医に電話するのではなく、
本人が持参し、本人の同意のもとで、書式を通じて情報がやりとりされる
という形が基本です。

両立支援は、本人から支援を求める申出があったことを起点に進めるのが原則です。会社が「病気を探しにいく」仕組みではありません。 Source

上司の役割は、この流れの中で、勤務情報を正確に提供することです。
「どんな業務を、どのくらいの負荷で担っているか」を、正確に伝える。これが、上司にしかできない貢献です。


役割4:守秘義務を、上司が率先して守る

治療と仕事の両立支援では、日常のメンタルヘルス対応以上に、情報管理が問われます。なぜなら、扱う情報が機微情報だからです。

厚生労働省「こころの耳」のQ&Aでも、本人の同意なく健康情報を収集・共有してはならないこと、そして上司や同僚に対しても、病名などの個人情報を守秘するよう徹底すべきことが示されています。 Source

とくに両立支援の場面で、本人の同意なく他のメンバーや同僚に病名を漏らすことは、厳禁とされています。業務調整のために情報共有が必要な場合でも、「誰に」「どこまでの情報を」開示するかを、あらかじめ決めておく必要があります。 Source

上司がやりがちなのが、この線引きを曖昧にしたまま、

  • 「◯◯さんは病気らしくて、しばらく配慮が必要なんだよね」
  • 「あの人、大変な病気で」

と、チームへ気軽に共有してしまうことです。
善意からの説明でも、本人の同意がなければ、それは情報漏えいになり得ます。

共有してよいのは、本人が同意した範囲の情報のみです。
たとえば、病名は伝えず、
「しばらく通院のため時間の配慮が必要」
という業務上必要な情報だけを共有する、という形です。

なお、メンタルヘルスの対応を含め、管理監督者が個人情報保護と安全配慮義務をどう理解すべきかについては、「こころの耳」の専門家向けQ&Aにも整理されています。 Source


役割5:配慮は「特別扱い」にならない形で設計する

上司が両立支援を支えるとき、実務上いちばん悩むのがここです。

  • 配慮しすぎると、周囲の不公平感が出る
  • 本人も「特別扱いされている」と感じる
  • どこまでが「配慮」で、どこからが「優遇」かわからない

この迷いへの答えは、シンプルです。
配慮は、業務の調整として設計する。 個人の評価や扱いとして設計しない、ということです。

たとえば、

  • 通院日は事前に勤務予定に組み込み、業務の割り振りで調整する
  • 負荷の高い業務は、しばらく役割分担を組み替える
  • 残業制限は、チーム全体の働き方のルールとして一時的に運用する

こうすると、本人だけを特別視せずに済みます。
周囲への説明も、「◯◯さんを特別扱いする」ではなく、「しばらくこの業務はこう分担する」という業務の話として伝えられます。

これは、部下を守るだけでなく、職場の空気を荒らさないためにも有効です。両立支援は、本人と職場の両方を守る設計である必要があります。


役割6:上司自身が「ひとりで抱えない」

両立支援は、長期戦になりがちです。
治療の期間は数か月から数年におよぶこともあり、その間、上司は配慮を続けることになります。

そのため、上司ひとりが抱え込むと、必ず疲弊します。

  • 「自分が何とかしなければ」
  • 「他のメンバーに負担が寄っている気がする」
  • 「配慮が足りないと言われたらどうしよう」

こうした不安は、上司がひとりで判断しているから生まれます。

だからこそ、上司は早い段階で、人事・産業医・両立支援コーディネーターといった支援の輪に入る必要があります。役割を分担し、判断を一人で負わない体制をつくること。これは、逃げではなく、長く支えるための条件です。

「こころの耳」の部下を持つ方向けのページでも、部下のケアをするためには、上司自身のゆとりが大切であり、上司自身のこころのケアにも目を向けることが示されています。 Source Source


まとめ:上司の役割を一文で言うと

治療と仕事の両立を支える上司の役割を、一文にまとめるとこうなります。

「医学的な判断は専門職に任せ、現場の事実と調整を担い、本人の同意のもとで、守秘と配慮を続けること。」

具体的には、次の6点です。

  1. 医学的判断をしない:就業可否は産業医・主治医の領域
  2. 必要なのは配慮情報:診断名より「何を調整すれば働けるか」
  3. 主治医と直接やりとりしない:連携は本人を介して、書式で
  4. 守秘を率先する:病名は本人の同意なく共有しない
  5. 配慮は業務の調整として設計:特別扱いにしない
  6. ひとりで抱えない:人事・産業医・コーディネーターと分担する

部下が治療を続けながら働くことを選んだのなら、それは「無理をしている」のではなく、働き続けたいという意思表示です。上司の役割は、その意思を、現実の働き方に落とし込むこと。

上司は、治療の専門家ではありません。
でも、部下が治療と仕事を両立できるかどうかは、上司の関わり方に少なからず左右されます。

特別なことをする必要はありません。
役割を守り、事実を伝え、同意を尊重し、配慮を続ける。
その丁寧さが、部下が長く働き続けられる職場をつくります。


よくある質問(FAQ)

Q1.部下が病気だと知ったとき、まず何をすればよいですか。
すぐに医学的な判断をしようとせず、本人から「仕事を続けるうえで何に困っているか」を聴くことから始めます。そのうえで、人事・産業医に共有し、配慮事項の整理を依頼します。 Source

Q2.診断名を教えてもらえない場合は、配慮できないのでしょうか。
診断名がなくても両立支援は可能です。必要なのは、勤務時間・業務負荷・通院時間などの就業上の配慮情報です。 Source

Q3.チームのメンバーには、どこまで説明すればよいですか。
本人が同意した範囲に限ります。病名を伝える必要はなく、「しばらく時間の配慮が必要」といった業務上必要な情報にとどめます。 Source

Q4.会社として、何か制度を整える必要はありますか。
2026年4月1日施行の改正労働施策総合推進法により、治療と仕事の両立支援の取組みが事業主の努力義務となりました。対象は規模を問わずすべての企業です。 Source

Q5.上司が直接、主治医に連絡してよいですか。
一般的には、会社が主治医と直接やりとりすることは個人情報保護の観点から行われません。連携は本人を介して、勤務情報提供書や主治医意見書などの書式を用いて進めます。 Source Source

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